300人のエンジニアを育成。教育に熱い元エンジニアの社長がつくる"理想の組織”とは。
「社長公募制度」を通じて多くの経営人材を育成しているメンバーズ。今回はFlutterを用いるアプリ開発支援事業を展開する『クロスアプリケーションカンパニー』を設立した秋野さんにインタビューしました。カンパニーを設立した背景とその思いについて語っていただきました。
-まずはクロスアプリケーションカンパニーのビジネスについて教えてください。
パソコン、スマートフォンやタブレットなどユーザーが利用するデバイスは多種多様化しており、企業が提供するデジタルサービスは、あらゆるデバイスに対応することが求められます。
なかでもスマートフォンのアプリ開発は、iOSやAndroid向けにそれぞれの環境を準備し、別の言語を用いる必要があり、開発コストや運用・保守の負荷が増加する傾向にあります。
そこでこうした現状を打破するべく、Flutter(※1)を用いたスマートフォン向けアプリケーションの開発や運用を支援。複数のプラットフォーム向けのアプリケーションをまとめて作成することで、開発速度の向上やエンジニア確保の難易度低下を期待できると共に、開発コストを大幅に減らすことを目的としています。
-メンバーズにはどのような経緯で就職したのですか?
高専で電子制御の分野を学んでいたのですが、学生時代から「これからはWebやアプリの時代だ」と感じていて「IT業界で働きたい」という思いがありました。
メンバーズのインターンに応募したら参加することができ、その時のメンバーズの働き方が自分が持っていたイメージと一致したので「メンバーズで働きたい」と思うようになりました。
-入社してからはどんな仕事を経験しましたか?
入社後5年間は、エンジニアとして働いていました。3年目の段階で現場チームのリーダーとなり、そこで運よく小さなチームから大きなチームを作るフェーズを経験することができました。最初は4名からスタートしたのが最終的には17名まで増えていったのです。他拠点から来た方も多く、様々なバックグラウンドのメンバーが集まりましたが、チーム内に壁が存在することはありませんでした。各自で人脈を増やしていくような、良い雰囲気の中で仕事をすることができたと思います。
現場を経験した後は、エンジニア育成専任担当に就任しました。もともと学生時代に塾講師のアルバイトをしていた経験から、人に教えることが好きだったので「いずれは教育をやりたい」という気持ちが強くあったのです。300人以上のエンジニアの育成に携わることができました。寡黙な方だったのがきちんとコミュニケーションをとれるようになったり、新卒社員が3年目を迎える頃にはすごく成長をしていたり。そういった人の成長を見るのが何よりも楽しく、育成の仕事をしていて良かったと思う瞬間でした。
-仕事が充実している中、なぜカンパニーの立ち上げを考えたのですか?
育成専任担当の仕事はやりがいがありましたが、締め切りがないため現場ほどの緊張感はなかったんです。「ここに身を置きすぎたら甘えてしまう」という危機感があり、自分に喝を入れるために社内の次世代経営塾『JL塾』に入塾しました。マネジメントの本を読むのが好きで、Googleの人事責任者の仕事に興味を持ったことから「人事の最高責任者を目指したい」という思いもありました。
そのJL塾の課題に『カンパニーの立ち上げ』があり、「せっかくならチャレンジしてみよう!」と思ったことが立ち上げを考えたきっかけです。最初はビジネス案が全然思いつかなかったのですが、たまたま周りのエンジニアと「Flutterという技術が面白い」という話をしていて、そこからひらめきを得て事業案を立てることができました。企画から立ち上げまでのスピードは非常に早かったです。
-立ち上げた後に苦労したことはありますか?
まず最初のプロジェクトで、Web開発とアプリ開発は全然違うということを思い知りました。
若手がチャレンジした案件で、内容としては1ページを別のページに移動するだけで、AndroidとiOSのどちらでも作ろうというプロジェクトだったのです。しかし、このプロジェクトがつまづいてしまい、すごくお客様に怒られることになりました。
その時に「Webだと動くのに、アプリだと全く動かないことがある」というアプリ開発の難しさに気づきました。たとえば通知を出す機能の追加など簡単にできそうに見えますが、実は実装するのが大変だったりします。このプロジェクト以降は、必ず現場でつまづいたところはケース研究会を行なうようになりました。
世の中的にもFlutterでの開発経験者は少ないので、社内でどのように教育していくかは試行錯誤しながら取り組んでいきました。ただ、チャレンジするのが当たり前の業界なので、新しい技術を学ぶ覚悟はみんな持っています。学びつつアウトプットし、プロジェクトに送り出すことを繰り返していきましたね。
また自分自身のことですが、慣れないバックオフィス業務に最初は苦戦しました。案件獲得のために営業業務が欠かせませんが、これまで営業をやったことがないので注文書、見積書、押印などがよく分からない状態だったのです。自分がやっている業務が経理なのか、法務なのか、労務なのかも分からないまま進んでいきました。周りのプロフェッショナルな方々に聞きながら、なんとか業務を遂行しました。ただ自分の性格上「なんでそういうロジックになるのですか?」ととことん聞いてしまうタイプなので、聞かれた方々も嫌だったのではないかと思います(笑)
-立ち上げて良かったと思うことや嬉しかったことはありますか?
立ち上げたばかりの時は大変なこともありましたが、うれしいこともありました。それは社員の成長を大きく感じられたことです。
前述した最初のプロジェクトでとても苦労していた若手社員が、その仕事が終わった後すごく強くなったと感じました。プロジェクトでの経験やこういうケースがあったという情報を自ら社内に入れてくれて、研修なども力を入れて取り組んでくれたのです。それで今のクライアントからはすごく評価されるようになりました。そして私自身、とても苦労して頑張ってくれている若手社員の姿を見て、精神的に励まされました。
ほかにもディレクター未経験だった子が、半年でエンジニアとディレクターどちらもできるようになったり、現場で社員の成長を感じられることが多くてうれしく思います。
-秋野さんが“組織づくり”で意識していることはありますか?
社員がモチベーション高く仕事に取り組むためには、働きやすい環境を整えることや前向きに未来を見ることができる環境が必要だと考えています。クロスアプリケーションカンパニーでは様々なプロジェクトに取り組めるように、社内勉強会や外部講師によるセミナーといったインプットできる場所を用意し、将来を描けるようにキャリアサポート制度を充実させています。
そして私も普段から、メンバーの「あれやりたい、これやりたい」という個人の考えや希望に耳を傾けるようにしています。カンパニーの方向性と結び付けて、希望を実現できるように導いていこうと考えているのです。
もちろん会社としては「いつまでに売上をこうしたい」といった数値データの話も大事ですが、それだけ伝えても社員のモチベーションは上がりません。会社の未来だけではなく、個人の未来や将来まで落とし込んで夢を見せることは、経営者として大切な仕事だと思っています。
また、カンパニーを立ち上げた時からフルリモートで働いているのですが、チャットでもテレビ会議でもメンバーにはよく雑談を振るようにしています。相手を知ることは、コミュニケーションを円滑にするためにとても重要だと思っているので、『話す文化』を根付かせていきたいです。
-これから、どんなカンパニーにしていきたいと考えていますか?
これはクロスアプリケーションカンパニーの特徴なのですが、黙々とやるタイプのエンジニアより喋るタイプのエンジニアが多く、社員同士が仲良くなりやすい雰囲気があります。これからの時代、メンバーズだけではなく世の中的にも「何を作るのか」を考えることが大切になりますので、自ら発信できるエンジニアをどんどん育てていきたいと思っています。
前向きに仕事に取り組んでいる社員、この先こんなふうになりたいという夢を見ている社員など、ポジティブな社員が増えれば、組織内に良い雰囲気が醸成されていきます。クライアントの中には必ず画面オフで話をされる方もいらっしゃいますが、こちらは必ず画面オンで話すようにしています。すると前向きな空気が伝わるのか、どんどんアイデアが出てくるようになるんです。「そういった空気が助かる」と評価してくださるクライアントも多くいるため、クロスアプリケーションカンパニーが持つ空気や文化は強みになると思っています。
今は17名のカンパニーですが、ゆくゆくは100人ぐらいの規模にまで大きくしていきたいです。もともと自分が所属していたのは、メンバーズエッジという子会社でした。今は統合されたのですが、その子会社も最終的に300名規模の組織に成長しました。当時は組織が成長していく面白さをいち社員として肌で感じていたので、その空気感を自分のカンパニーでも作り出していけたらいいなと考えています。
編集後記
カンパニーの立ち上げ当初は、様々な苦労や試行錯誤があったものの、メンバーと共に困難を乗り越えてきたそうです。
『話す文化』を根付かせたいと想いを語ってくれたように、メンバーそれぞれの考えや希望に耳を傾け実現していくというカンパニー運営のスタイルから、コミュニケーションを大事にする秋野さんらしさを感じることができました。
取材・文/須藤 亜希子
写真/谷貝 玲