「ウェディングケーキ」の底から社会を変える取り組み。メンバーズだからできる脱炭素と社会課題解決の道すじ。
小中学生のころからグローバルな社会課題に関心があった我有さん。現在、メンバーズの脱炭素DX研究所の所長を務め、気候危機の回避に向けて温室効果ガスの削減のサービス開発に取り組んでいます。そんな我有さんの社会課題に対する思いの源泉と今後の目指す姿について聞きました。
ビジネスのフィールドで社会課題に向き合いたい。
子どものころから飢餓・貧困や格差など、グローバルな社会問題に関心がありました。自宅にユニセフの刊行物やカレンダーが定期的に届いており、自然と興味を持ったのです。転換点になったのは、高校生のとき。スーダンで医療活動をしているNPO法人の方が学校に講演に来てくださったんです。その方の話を聞いたときに、発展途上国の現状に衝撃を受けました。そこで、途上国開発や貧困問題をちゃんと学んでみたいと思い進路を決めました。
大学では国際協力開発学を専攻し、その中でマイクロファイナンスについて学びました。マイクロファイナンスというのは、貧困層や低所得者を対象として、貧困緩和を目的とし行われる小規模金融のことです。例えばバングラデシュの貧困地域ではマイクロファイナンスの取り組みで、貧困層が無担保で少しずつお金を借りながら自分でスモールビジネスを展開し、暮らしを改善したという事例があります。単純に寄付や支援でサポートするのではなくて、ちゃんとお金が回る仕組みを作っていくことが大事なんだと痛感しました。
そんな背景から、就職活動の際はNGOやNPOよりも、ビジネスで社会課題を解決しようとしている企業に就職したいと思うようになりました。
大学の課外コミュニティがきっかけで知った、メンバーズのCSV。
メンバーズの存在を知ったのは、大学の課外活動がきっかけです。ソーシャルビジネス・CSR・CSV(※1)を学ぶコミュニティがあり、その中の友達が教えてくれたんです。
CSV(Creating Shared Value)を学ぶうちに、企業の経営だけでなく、生活者側の行動変容も大事だと感じていました。どういう企業が作ったものなのか、どういう風に作られたものなのか、モノやサービスを選ぶ目を養い、賢い生活者、リテラシーを持った生活者がどれだけいるかが大切。「生活者のニーズがないと企業は変われないし、生活者も企業がそういう選択肢を提供してくれないと選べない」という対立構造のままでは前に進めないと思うんです。企業と生活者の関係性をリデザインしていくことを目指しているメンバーズの理念に共感し、入社を決めました。
ウェディングケーキの底から社会を変える、気候危機への想い。
私はもともとさまざまな社会課題に関心があったわけですが、正直、地球温暖化への関心はそれほど強くはありませんでした。入社3、4年目のときに社員総会で会長の剣持さん(当時は代表取締役社長)が「メンバーズはこれから地球温暖化の解決を目指すぞ」とプレゼンされました。その時に「なぜ地球温暖化なんだろう。格差とか貧困とか少子高齢化とか、もっと身近で「いのち」や「暮らし」に直結する問題があるのに」と疑問に思いました。しかし、地球温暖化について調べ始めると、地球温暖化がもたらす気候変動がほかの社会問題とも密接に絡み合っていることがわかりました。
例えば、気候変動はジェンダーの問題とリンクしています。気候変動の影響は女性の方が生物学的に受けやすいと言われています。また、ジェンダー平等を実現できている国のほうが気候変動対策がとれていて、ジェンダーの平等性が低い国の方が気候変動に対してぜい弱だというデータもあります。異常気象による干ばつや洪水は食料難や健康被害を生み飢餓が発生したり、食料を奪い合うことは平和や安全保障、格差の拡大につながります。
このように、もともと中高時代から興味を持っていた社会問題が気候変動によってさらに悪化するという関係性も見えてきました。“地球温暖化=環境問題”ではなくて、人権問題であり、医療福祉問題であり、経済安全保障問題であり…気候変動を解決しようと努力することはニアリーイコールでほかの社会課題の解決にもつながります。
また、気候変動対策として「脱炭素」が掲げられていますが、正直私はこの言葉があまり好きではありません。「脱炭素」という手段だけに目が行くと、「CO2を減らしさえすればいい、CO2を吸収できればいい」といった考え方に陥りかねません。私たちが目指さなければならないのは、「脱・炭素」ではなく、「脱・炭素依存社会」だと思っています。これほどまでに気候危機が進むほどCO2をたくさん生み出さなければならなかった社会経済構造から脱却すること。そういう社会構造を作ってきてしまった意思決定のプロセスを変えること。女性や未来世代の視点を入れること。社会やビジネスの在り方を構造的に作り変えることが本質的な地球温暖化のためのアクションだと感じるようになりました。だったらこの問題に立ち向かうことは、いろんな側面でウェルビーイングを実現させることなんだと腑に落ちましたね。
SDGsの17の目標の関係性を示すものとして、ウェディングケーキモデルという図があります。下が生物圏で、真ん中が社会圏、上が経済圏というようにSDGsの17個を三階層の構成にした図です。生物圏には「海と陸の豊かさを守る」「安全な水とトイレを世界中に広げる」「気候変動の具体的対策をとる」という目標が入っていて、一番上に「不平等をなくす」ことや「働きがいと経済成長」などが配置されています。私が大学で国際協力の分野を学びたいと思った入口は、経済や社会開発といったケーキの上の領域への興味からでしたが、今はその基盤となっている生物圏のゴールに向き合うことの重要性や可能性を感じています。
脱炭素DX事業で変える、ビジネスのあり方。
現在私が所属しているCSV本部のなかには、脱炭素DX研究所と脱炭素DXカンパニーがあります。
まず脱炭素DXカンパニーの事業について説明しますね。プライム上場企業を中心に、自社が事業の中でどれくらい温室効果ガスを排出しているのかを開示しなければなりません。適切に開示しないと投資を受けられなかったり、取引に影響が出たりします。そして、いざCO2の排出量を可視化しようとすると、関連する事業部や調達部門、BO、さらにはサプライヤーなど社内外の多様な関係者から情報を集めてこなければいけません。そこには算定ロジックなどの専門的なノウハウや内製化のための仕組みづくりが必要です。脱炭素DXカンパニーでは、GXコンサルタント人材がそういった企業のサステナビリティ課題の解決に向けて伴走支援しています。
実際のご支援の例をご紹介したいと思います。例えば、製造業の企業では、原材料の調達や、販売後の使用段階、廃棄の過程など、サプライチェーン全体でどの程度CO2が出ているのか測る必要があります。それを測るには各事業部や関連会社からデータを集めてこなければなりません。Excelで集計することにより業務が属人化してしまったり、ミスが多くなったりすることもあります。脱炭素DXカンパニーでは、そうしたCO2排出量の算定業務の課題解決として、算定プラットフォームを導入し、使い方のマニュアル作りや関係者への説明会の実施などを行い、効率的に算定業務を行えるよう支援しました。デジタルスキルとともに、炭素会計に関する知見を有したメンバーズ社員がクライアント先に常駐し「あたかも社員」のように、算定プラットフォーマーとクライアントの翻訳者のような役回りをしながら進めていきました。
脱炭素DX研究所は、カンパニーの事業を支えるために、サステナビリティや脱炭素に関する最新の規制や事例などを調査・研究し、発信しています。海外も含むさまざまな事例を先見性を持ってウォッチして、これから市場がどう動いていくのか示唆を出す役割です。カンパニーのソリューションづくりや、サーキュラーエコノミーなどをテーマとした実証実験なども行っています。
例えば、研究所の活動としては、金沢大学と石川県白山市の無印良品とで、「サーキュラーなMUJI商品」のアイデア創出ワークショップを企画運営しました。地域住民の方とともに、これからの商品サービスやビジネスモデルを考えるきっかけになったと思います。
▼ワークショップの様子はこちらからご覧ください。
誰かを置き去りにすることがない社会変革を、未来に向けて信じて進み続ける。
今年は観測史上最も暑い一年になると報じられています。産業革命からの平均気温上昇を1.5℃までに抑えるという世界共通目標がありますが、それをもう超えてしまうともいわれている中で、絶望感に苛まれたり、悲しみや怒りなどいろんな感情がうごめいていると思います。気候変動問題に立ち向かう中での難題は、「急がなければならないけど、思いやりと公正さを持って、さまざまな葛藤を抱えながら進んでいかなきゃいけない」ということだと思っています。
新しい社会への変革の過程において、例えば、ガソリン車やエネルギー会社など環境負荷の大きい産業で働いている労働者たちが仕事を失う可能性があります。あるいは、再生可能エネルギーの拡大に向けた太陽光パネルの設置には地域住民・地域の生態系への影響についても慎重になる必要があります。効率性や成長が第一の価値基準となっているビジネスのフィールドでは難しいことも多いと思います。気候危機の現実と深刻さを正しく認識し、不都合な真実と向き合う強さを持つこと。そして自社のビジネスがもたらす環境や人権への影響に自覚的でありながら、希望を見出し、ほしい未来の実現に向けて人々を巻き込んでいく前向きなリーダーシップをいかに持っていけるか。こういったマインドをビジネス界にインストールすることがすごく大事だと思っています。
「1.5度までに抑えるための炭素予算はもう決まっている」という制約のなかで、「無理やり脱炭素はできても、格差や不公平な構造は残ったまま」ということにならないよう、誰も取り残さない変革の在り方がきっとあると信じて、社会構造や経済モデルそのものの変革を模索し続けていきたいです。
編集後記
我有さんは脱炭素DX研究所の所長として、気候変動問題の最前線で奔走しています。取材を通して「社会を変える」という我有さんの強い意志が伝わってきました。「社会変革の中で誰も取り残さない」という言葉に、私たちの目指す社会が表れていると感じます。
私自身も気候変動問題について、改めてより深く知ってみたいと思いました。
文/吉田 拓望
取材・写真/谷貝 玲