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アジャイル開発×UXデザイン:その①「UXデザイナーはプロダクトバックログにどう関わる?」

株式会社メンバーズのシニアUXデザイナーの植木です。
メンバーズでは、アジャイル開発をメインにお客さまのプロダクト開発の支援をするチームがあり、私はそのチームの中でUXデザイナーとして動いています。

この記事では、理想を掲げがちなUXデザインと、現実的な問題も発生する開発の橋渡しをする「プロダクトバックログ」へのUXデザイナーの関わり方をご紹介します。
プロダクト開発の現場に関わる方はぜひ参考にしてみてください。


アジャイル開発はUXと相性が悪い?

アジャイル開発はUXを犠牲にして成功したわけですが、これは「企業はスケールしたがる」という深い真実の表出に過ぎません。そして基礎的なUXの仕事はスケールしません。予測・反復が可能なプロセスや、一般的な量産型の役割分担にも適していません。なぜなら、UXの仕事は有機的に進化するビジネスの最先端を特徴づける、未知で曖昧な、定義しにくい問題を扱うからです。
規則的なスプリントの速さ、明確に示された成果目標、複雑に展開するユーザーエクスペリエンスの具体的なコーディング要件への落とし込み。こうしたアジャイル開発の要素は、エンジニアリングのような仕事をスケールさせるには最適である一方、基礎的なUXの仕事にはまったく適していません。基礎的なUXの仕事に必要な全体論は、アジャイル開発が必要とするユーザー行動の組み立てラインとは相反するものです。

「The Elements of User Experience ~5段階モデルで考えるUXデザイン」

これは「The Elements of User Experience ~5段階モデルで考えるUXデザイン」という本のあとがきに書かれている文章です。
このように、アジャイル開発とUXデザインは相性が悪いと言われています。

私はアジャイル開発現場でUXデザイナーとして支援する中でそれぞれのプロセスをどうすれば効果的・効率的に融合できるか試行錯誤してきました。
このブログを借りて設計と開発がコラボレーションする理想的な連携の仕方についてわかったことを共有していきます。

※メンバーズでは、アジャイルの手法としてスクラム開発を採用しています。なのでこの記事では、スクラム開発×UXデザインの融合、と言い換えても問題ありません。

UXデザイナーはプロダクトバックログにどう関わるべきか?

みなさんご存知のとおり、スクラム開発ではプロダクトバックログがとても重要な役割を果たします。

プロダクトバックログとは、プロダクトオーナーが作りたいものをリスト化したプロダクトの仮の姿であり、開発者が次になにをすればいいのかを知るための道標であり、プロダクトオーナーと開発者をつなぐ架け橋であり、ユーザーへの提供価値を向上するための優先順がつけられた備忘録であり…などなど、とにかく重要です。
では、そのプロダクトバックログにUXデザイナーはどのように関わるべきなのでしょうか?

実際にプロセスを回す中で、UXデザイナーはプロダクトバックログのアイテムをつくるスキルを持つべきだと、私は感じています。

理想論を提示するだけではユーザーに価値が届かない(=売上が上がらない!)

「自社のUXデザイナーは企画はつくってくれるけど、それを開発するこちらとしては、もっと技術のことや開発工数のことも考えてもらわないと困るんですよね…」

以前、ある事業会社の開発担当者からこのように相談されたことがありました。
プロダクトのビジョンや理想の姿を描き示すことはとても重要です。

しかし、プロダクトが提供したい理想の体験を描いたとしても、それを実現しようとすると収益や開発工数や開発期間など、いろいろな「現実の問題」が立ちはだかってきます。
その「現実の問題」を考慮しながらも、理想の提供価値や体験をぶらさずにプロダクトのMVPをいかに設計していくのか、とても難しいですがUXデザイナーの重要な役割です。

スクラム開発では、そうしてつくられた理想の価値や体験を提供できる実現可能な形を「プロダクトバックログ」として表現します。
アジャイル開発におけるUXデザイナーに求められる役割は、理想をいかに実現可能なプロダクトの形に落とし込むことができるのか、です。つまりUXデザイナーはプロダクトをバックログという形に落とし込めてはじめて、デザイナーとしての責任が果たせたといえると、私は考えています。

プロダクトオーナーのバディとしてのUXデザイナー

もうひとつ、UXデザイナーがプロダクトバックログのアイテムをつくるスキルを持つべき理由があります。
それは、実際の現場でプロダクトオーナーになる方は未経験者が多いことです。
スクラム開発の手法は日本にも広まってきていますが、まだまだプロダクトオーナーとしての実績や経験値を十分に持つ方は少ないのが現状です。

UXデザイナーは経験のない(浅い)プロダクトオーナーの相方/バディとして業務を支援する必要があり、そのプロダクトオーナーのもっとも重要な業務のひとつがプロダクトバックログの作成、管理、運用です。

スクラム開発では、プロダクトバックログの最終的な決定権はすべてプロダクトオーナーに任せられています。プロダクトオーナーがより良い決断を下せるための材料を集めたり、プロダクトバックログ自体の作成を支援することもUXデザイナーの役割として必要で、そのためにはUXデザイナー自身がプロダクトバックログを作成できた方がより大きな貢献ができます。

実践例:プロダクトバックログへの関わり方

実務の参考になるように、私がこれまで支援してきた案件での、UXデザイナーのプロダクトバックログへの関わり方の実例をご紹介します。

例1:プロダクトA(社内+エンドユーザー向けのシステム)

  1. まず、ユーザーリサーチやその分析を実施した上で、ペルソナ、カスタマージャーニーマップ(AS-IS)を作る

  2. 上記をもとに議論しながらユーザーストーリーマップを作成し、理想の体験とプロダクトが提供する機能を決めていく

  3. 2の段階では、プロダクトの機能はまだ解像度が低い状態なので、追加の調査やチーム内での議論によりユーザーストーリーマップの解像度を高め、必要な機能のイメージを固めていく

  4. また、UIデザイナーが並行して画面のプロトタイプを作成し、実際のプロダクトのイメージを膨らませながら機能の検討を進める

  5. 3,4を経て、ユーザーストーリーマップ上にユーザー体験と解像度が高まったプロダクトの機能が記載されている状態になる

  6. プロダクトオーナーがそこに記載されている機能をもとにしてプロダクトバックログアイテムとその受入条件を作成していく

例2:プロダクトB(BtoBサービスのシステム)

1~5までのプロセスは企業Aと変わりません。

6. UXデザイナーがプロダクトバックログアイテムとその受入条件を作成する
7. プロダクトオーナーが作成されたアイテムを確認し、承認する

UXデザイナーが主導する1~5までのプロセスはどちらのプロダクトでも共通ですが、その後にプロダクトバックログを作成する役割が異なっています。

プロダクトAの場合は、プロダクトオーナーの経験が豊富にあるため自身でプロダクトバックログを作成していますが、プロダクトBの場合は経験が少ないことや時間が十分に取れないことからUXデザイナーがアイテムの作成を行なっています。

まとめ

UXデザイナーは、プロダクトが提供する体験を設計する担当として、またプロダクトオーナーのバディとして、プロダクトバックログを作成するスキルを持っていた方が、よりチームへの貢献度合いが大きくなります。

プロダクトオーナーの研修や、書籍やWEB記事で学ぶこともできるので、スクラム開発に関わるUXデザイナーの方の重要スキルとして「プロダクトバックログの作成」をオススメします。

今回はプロダクトバックログへの関わり方をご紹介しました。
続編ではスクラムチームの中にUXデザイナーが入る上での理想の距離感や、具体的な実現方法をご紹介しています。
ぜひ読んでみてください!

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